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皆さん、こんにちは。私はグリーンフラスコ研究所(東京・自由が丘)で、メディカルハーブについての研究をして情報を発信する仕事をしています。私は、植物と人間の暮らしとの関わりについての関心から、人間の生活の場と自然との接点に触れることができる山や森を歩くのがとても好きです。森を歩いていると様々な植物に出会います。今回はアメリカの森を歩いて思ったことをお話しします。

vol.04 ネイティブな心とハーブ:アメリカ、そして日本

American Native Herbs & Japanese Native Herbs

今から何年か前の夏、米国ワイオミング州など3州に広がる雄大なロッキー山脈に位置するイエローストーン、グランティトン国立公園に滞在して、森の中を毎日歩きました。
このあたりの夏は短く、9月には初雪が降ります。春夏が一緒に来るため、植物は7~8月頃に勢いよく繁り、一斉に花を咲かせます。ロッジの柱に使う真っ直ぐに立つマツ科のロッジポールパインが8割を占める針葉樹林帯の林床には、針葉樹の青々とすっきりした香りに包まれながら可憐で逞しい花々が咲き揃っていました。

ワイオミングの州花インディアンペイントブラシの赤い花や六百種にものぼるバラエティをもつマメ科のルパインの青い花、太陽に向かって大きく伸びたヒマワリの仲間バルサムルートの黄色、夏の山火事のあと数週間で生え始めるというファイヤウィードの赤紫と色とりどりです。森の道沿いのジャイアントヒソップ(別名ホースミント)の葉をつまむとミントが心地よく香ります。それらの植物について調べてみると、そのほとんどはネイティブアメリカンが用いてきたハーブでした。この土地にはしっかりと自然と向き合って大地に根付いた豊かな生活を築いた人々が住んでいた・・。そう思うとネイティブアメリカンのハーブについてもっと知りたくなりました。

写真左から:ロッジポールパインの森の林床植物 ワイオミングの山:ロッジポールパインとセイジブラシ

ネイティブアメリカンのハーブの使い方を調べていると、私たち日本人との共通性を感じ、その世界観に魅かれます。
朝に目を醒まして東の空に向かい、昇る太陽をお天道様と呼んで拝み、柏手を打って新しい一日を元気に迎えられたことを感謝したり、夏の空に閃光を煌かせて鳴り響く雷を神鳴りと表して恐れ慄いたり・・。四季の中に無数の季節を持つ自然に恵まれた土地で、自然の織り成す風景や人々の暮らしの様々な場面に八百万の神をみる昔ながらの日本人の世界観は、グレートスピリットと呼ぶ自然の掟のもと、自然の持つ多様性と調和の前に謙虚であり、構成するすべてのものを対等に敬い、全体のバランスを尊重するネイティブアメリカンの世界観とともに「自然の掟に対する畏敬の念」というひとつの思想基盤の上に成り立っていると思います。

写真:日本の森

太平洋を丸く囲んで同じモンゴリアンが先住した二つの土地、日本とアメリカ・・。
それぞれの土地で伝承されているハーブについて調べていると、同じ仲間のハーブを用いていたり、使い方が同じであったり、新たな発見があります。
日本人に馴染みのある蓬(Artemisia princeps)、そしてネイティブアメリカンの用いるセイジブラシ(Artemisia tridentata)は同じキク科ヨモギ属のハーブです。

早春の日本、温かい陽が当たると蓬の葉がむくむくと起き上がって来ます。道端に目を向けるとどこでも元気に育っている蓬は暮らしの中でも大活躍、お灸で用いる艾(もぐさ)は蓬の葉を原料にしています。1,8-シネオールなどの成分によって浄化作用を示すヨモギ属の仲間は、魔除け・厄除けに使われることも多い神聖な植物でもあります。
日本では古くから五月に菖蒲と共に蓬を頭に冠って邪気を払ったり、雛祭りに蓬で作った草餅を食べ、邪気を払い健やかな成長を願ったりします。一方、ネイティブアメリカンの暮らしではセイジブラシが大活躍。様々な儀式や人生の節目にビジョンを見るために行うスェットロッジ(サウナのようなもの)では、セイジブラシの乾燥した葉や燃やした茎を用いて心も体も浄化します。日本の蓬もセイジブラシも、メディカルハーブとしては抗菌、止血、腹痛や風邪の症状緩和など、万能薬として使用されてきたようです。


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写真左から:セイジブラシ(Artemisia tridentata) 蓬(Artemisia princeps)

ネイティブアメリカンのハーブと日本のハーブ、これらはどちらもその土地に先住する人々によって用いられて伝承されてきました。身の回りの自然としっかりと向き合い、植物の声を聴き、美しいものや本当のものを敏感にキャッチする・・。こういうところから、自然の恵みを享受することができ、健やかで美しい心や体が生まれるのでしょう。まずは日々の暮らしの中、無数にある日本の季節をじっくり感じていきたいですね。

【プロフィール】

村上 志緒
グリーンフラスコ研究所 主任リサーチャー
社団法人日本アロマ環境協会認定アロマセラピスト・アロマテラピーインストラクター
早稲田大学大学院理工学研究科 物理学及び応用物理学専攻
生物物理部門修士課程修了。理学修士。
2000年3月までNECに勤務、バイオセンサの開発、生体の情報伝達機能についての研究に従事。
2000年4月 グリーンフラスコ株式会社入社。
グリーンフラスコ研究所主任リサーチャー。埼玉女子短期大学兼任講師。NHK文化センター講師。アロマトピア(フレグランスジャーナル社)に「ハーブリサーチレビュー」を連載中。
2002年9月「日本のハーブ事典」(東京堂出版)を発刊。
2006年2月『ひとりで学べるアロマテラピー検定試験1級・2級』(ナツメ社)監修。
グリーンフラスコ勤務の傍ら、2003年1月より東邦大学薬学部生薬学教室に研究生として在籍。

グリーンフラスコのサイト http://www.greenflask.com
グリーンフラスコ自由が丘店http://www.greenflask.com/shop/shop.html