特集

パリのマルシェ(市場)には、大量生産の食品が並ぶ大型スーパーとはまったくちがう世界があります。私が過去に何度か訪ねた、マルシェの空気をお伝えしながら、『食べもの』についてお話したいと思います。

vol.05 パリのマルシェで交換したもの

五感と五感のコミュニケーション

パリ市内だけでも70以上あるといわれるマルシェ。中でもライスパイユ通りのマルシェMarche Raspailは、毎週日曜日だけ「ビオマルシェ(オーガニック市)」となってあらわれる、オーガニックびいきな人々に、人気のマルシェです。お買物せずにのんびり歩いたとしたら、15分くらいでしょうか。買物や試食、お店の人とのおしゃべりで立ち止まりつつともなれば、2時間くらいは楽しめてしまうので、私にとってはいつもこのマルシェがパリ旅行の、クライマックスとなっています。

マルシェは、いろいろな人、いろいろなものが集まって、いろいろなことを交換する場所のような気がしています。交換するものは「お金と品物」ではなく「五感と五感」。美しい野菜に目をうばわれて、美味しそうな香りに鼻がきいて、元気のいい生産者の楽しいお話に耳をかたむけて、大切につくられた食べものをじっくり頬張って。その感動を生産者がキャッチして、五感と五感のコミュニケーションがおこなわれているのです。

写真:※写真:ポタージュスープの屋台。パンプキンスープの有機かぼちゃはなんと北海道産。

野菜やハーブをはじめ、植物はその土地の土と水と空気で育っています。美しい水、透きとおった空気をたっぷり食べて育った植物はおいしいし、ちゃんと、その国の味がする。人も同じことがいえるようです。自然から生まれた“ほんものの食べもの”を食べて育った人間は、よくできているんですって。添加物のかたまりを食べれば、身体も心も添加物でつくられるのですから、ほんと、不自然な人間ができあがりそうです。何を食べるか、どこで食べるかは、自分をつくる材料選びのようなもの。とても大切な選択です。

パリで食べた植物はパリの味がしました。家で食べるのは家の味。そういうことが失われつつある今、パリの味の思い出は大事になっていきます。生のビーツ、ホワイトアスパラガス、玉ねぎとポテトのガレット、キャベツのジュニパーベリー漬け、レンズ豆のスープ、クレマンティーヌ。
そんなビオマルシェも15年くらい前にはじまったばかりのころと比べると、だいぶクオリティが下がったという地元の人の声もあります。パリでもオーガニックブーム中。ブームになると、ほんものの中にニセ物が紛れ込んでしまうのがどの分野においてもつきものなのですね。

写真:※写真:セージ、タイム、ローリエ。冬のマルシェにはそのとき生きているハーブだけが並びます。

大きなスーパーマーケットでも菓子類、瓶詰め食品コーナーにオーガニックマークの商品が並びますが、材料をオーガニックに差し替えただけの愛情のない味にはどうも興味がわきません。食べものは「商品」ではなく、「作品」です。安全であることだけを求めている最近の自然派志向。オーガニックもスローフードもロハスもいいけれど、言葉だけに流されずに自分の五感で選ぶほうがより自然ではないかと思っています。

ラスパイユのビオマルシェでは、安全だけではないオーガニックのすばらしさを感じ取ることができました。スーパーにおすまし顔で並ぶオーガニック野菜よりも、近所の市場に並ぶ、もぎたて野菜のほうが身体によく作用することだってあるものです。たとえ、農薬を使っていたとしても。自分のセンス(五感)さえ磨いていれば、すてきに“食べこなす”力が身につきます。

写真:※写真:株もとが大きくなるさわやかな風味のフローレンスフェンネルも山積み。

イヌイットの食事をご存じでしょうか。魚やアザラシの肉が中心で野菜はほとんどありません。欧米並みに脂肪を大量に摂っていますが心臓病が少なく健康でした。脂肪の質がちがうためです。
北メキシコのタラフマラインディアンは、とうもろこし中心というのが何百年も前からの食生活だそうです。一見、貧しそうですが彼らは一日150km以上の距離を走るうえ、生活習慣病とは無縁でした。しかし、イヌイットもインディアンも、少しずつ欧米の文化が入り込むにつれ、病気になる人が激増したといます。

写真:※写真:クレープは手づくりジャムがたっぷりと添えられて。

こうして世界の伝統食をたどってみると、世界共通の効果をもたらす食事法はないということがわかります。何を食べるかは身体がおしえてくれること。決めるのは一方的な情報やアドバイスではなく自分自身の感覚です。
植物や食べものと深く対話をしてみると自分に必要なものが見えてくるものです。もう、十数年、薬をのまずにいる私は体調がよくないときには自分に「何を食べたい?」と質問して、治癒するための食べものをみつけています。ぜひ、みなさんもマルシェや野菜畑、ハーブ園に出かけて、そんな感覚を取り戻しましょうよ。


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【プロフィール】

岩佐ゆみ
フレデリックパントリー,ノワイヨのサイト http://www.frederickpantry.com
広告デザイン会社にてコピーライターとして広告デザイン、編集に携わる。結婚後、フリーライターに。食べものと植物のすばらしさに出会ったのは結婚をしてすぐ、13年前のこと。以来、シンプルにていねいに暮らすライフスタイルを重ね、2001年、オーガニック輸入食材を集めたショップ「フレデリックパントリー」をオープン。店内にはベジタリアンカフェを併設し、植物性食材だけのメニューを提供。ハーブスクール運営ではハーブ講師を務める。ホリスティックチーム医療塾で代替療法、基礎医学などを学んだ後、2006年4月に植物療法のためのハーブショップ「ハーバルレメディ ノワイヨ」をオープン。食べものと植物を結びつけた視点でハーブ療法を研究中。
ナチュラル輸入食材店とベジタリアンカフェ「フレデリックパントリー」、ハーバルレメディ「ノワイヨ」代表
ハーブ療法研究家
ジャパンハーブソサエティー認定上級インストラクター
日本ホリスティック医学協会認定生活習慣病予防士