BOOKクラブ

みんなに注目されているソーパーさんたちに、石けん作りや日々の暮らしに影響を与えたお気に入りの一冊と、その本にまつわるエピソードを紹介してもらいました。

「プリニウスの博物誌」

石けんsapoとは、ガリア諸属州で髪の毛を赤くするために発明されたものである。
脂と灰から作られ、最上の石けんはブナの灰と山羊の脂で作られる。
濃度のあるものと液状のもの二種類。
いずれの石けんもゲルマン人が使い、女よりは男が好んで使う。

   プリニウスの博物誌 第28巻51章 より

ラテン語で石けんを意味する ”sapo” (英語での soap の語源)が記された現存する最古の書物、古代ローマ時代の百科事典を紹介します。
紀元1世紀ローマの博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥス Gaius Plinius Secundus (23または24年 – 79年8月24日)の「博物誌」 Naturalis Historiaです。
「博物誌」には、地理天文、動植物、宝石、そして技術や芸術等の人間文化など、プリニウスが蒐集したあらゆる知識が収録されています。

と、書くと「難しそう…」と思われるでしょうか。
けれど、きっと石けん作りを楽しまれる皆さまには堪りませんよ!
この本には、古代ローマの人々がどんな風に動物や植物を利用していたか、香料や薬品、酒、媚薬などの作り方や使い方が記されています。人々の暮らしと植動物の歴史を知ることで石けん作りのアイデアを広げたり、改めて気付くことがあったり、と色々な楽しみの沢山詰まった百科事典です。
古代ローマ人の媚薬のレシピ、知りたくありませんか?
当時のローマには、エジプトやギリシアから香料原料や製法、動植物を薬品として利用する習慣などが伝えられています。良い香りの漂う風呂、クリーム、オイルなどは、その効能も手伝って、享楽的なローマ人の生活に欠かせないものとなりました。薬品や食品、香料は一体と考えられていた時代です。
「博物誌」全37 巻のうち半分以上の12から32巻が、動植物とその利用にあてられていることからも、当時の人々の関心の高さが伺えます。
記された植物名は1,000種類を越え、薬効は6,000以上!
ざっと頁をめくると目に飛び込んでくるのは、
乳香、ゲッケイジュ、イトスギ(サイプレス)などの香料となる樹木、
マンネンロウ(ローズマリー)、ニワトコ(エルダー)、ハッカなどのハーブ、
そしてオリーブ、ハシバミ、アーモンドなど脂肪油が採れる樹木、
その他、ハチ、ウシ、ヤギ、バラ、ネズ(ジュニパー)、ギンバイカ(マートル)、ガルバナム、トウゴマ、ブドウ…まだまだ沢山。
石けん作りでもおなじみの名前です!
単純なようですが、なじみのある動物や植物と当時の人々の関わりとを知ることに、わくわくします。
また、獣脂を塩水や海水で精製する方法、油脂と香料を壺に入れる香油の作り方などの記述に出会うと、「今も同じ!」と嬉しくなるのです。
「ハッカを加えたハチ蜜入りブドウ酒は〜に効く」「悪酔いしないためのバラを使った処方」など、ちょっと試してみたくなりますね。
それらの動物や植物を使った処方は、時に、神話や伝説、歴史を交えながら紹介されています。
「神々に捧げられた樹木」「放蕩のローマ皇帝の浴室の香料と香油」「クレオパトラとアントニウスの響宴のための香料」など、イマジネーションを刺激する記述の数々!
手作り石けんや手作りコスメのレシピに取り入れたくなりませんか。
また「博物誌」には、現代のわたくし達からすると意外な記述やファンタジックな事象も多くてびっくりすることもあります。
というのも、プリニウスは、実際に調べ、見たものだけでなく、報告者として数多くの作家の著作や伝説を引用し、自分にとって信じられないことでさえ書き残したのだそうです。例えば、神々に「モリュ」と呼ばれた魔術を防ぐ植物だとか…
ですから、記された事柄は鵜呑みにすることは出来ません。
けれど、そんな記述から当時の人々の想像力や好奇心が活き活きと感じ取られて、とても興味深いと思います。
そして、小さなネタの宝庫!
「カタツムリの通った後の土は〜に効く」というように試すのには躊躇われるようなレシピ、そんなものを使ってまで、そんなことをしたいのですね!? と驚くような魔術のようなレシピも。
(ちなみに、冒頭で引用した「石けん」は、喉口部の特効薬として記載されています!)
当時の享楽的なローマ人気質が垣間みられ、読み物としても面白いのです。

そして、そんなローマ人の奢侈と退廃ぶりを、プリニウスは折に触れ嘆いています。贅沢品である香料を乱用している、という批判が多く記されていてちょっと耳が痛いようですね。
例えば、乳香 フランキンセンスは古代ローマでは、採取の時期や輸送経路など細かな決まりに基づいて取引されていました。
採取場では、労働者はポケットの縫い止められたエプロン、髪を覆う網の細かなネットを頭に被り作業をしたそうです。そして現場を離れる際には、決して乳香を持ち出せないように全裸にならなくてはならないと記されています。
そして、輸送経路や通過する際の税金などにも細かな決まりがあった末に高価な商品になったということです。
古来より貴重な香料とされていた、という知識はあったのですが、この一節を読んでいかに貴重で高価なものだったか実感として伝わってきます。
現代のわたくし達は、比較的手頃に色々なものを手に入れて、石けん作りの素材として扱うことが出来ますが、過去から引き継がれた貴重なものだということをしっかり心に刻んでおこう、と「博物誌」に触れるたびに身に沁みています。
日本語訳本:
「プリニウスの博物誌」全3巻 雄山閣
Loebの英訳版を定本にした訳本です。第1巻は序文と1から11巻、第2巻は12から25巻、第3巻は26から37巻に該当します。冒頭で引用した石けんに関する記述は第3巻中にあります。かなり大判ですが、全巻を読む事ができ、関連の口絵や写真も掲載されています。
「プリニウスの博物誌 植物薬剤篇」 大槻真一郎訳 八坂書店
「プリニウスの博物誌 植物篇」 同
それぞれ、植物について論じた20から27巻、12から19巻がラテン語原典から訳されています。上記の雄山閣版よりはコンパクトです。植物に関する箇所で十分、という方にはぴったりだと思います。
石けん作りを楽しむという視点から「博物誌」を紹介しました。動物や植物以外にも興味深い内容が沢山です。
是非ご覧になって、皆さまにとっての様々な楽しみや知識を発掘してください。手作り石けんを通じて、本の楽しみも共有できたなら何よりです。
きっと、皆さまにもお勧めの1冊があることでしょう。
「日本中のあちこちに手作り石けんのブッククラブが広がるのが私の夢です。 … 有志を募ってブッククラブを結成してくださることを願っています」
今回のウェブ上でのブッククラブという素敵な企画を立ち上げた小幡有樹子さんの言葉です。
ブッククラブ、結成しましょう!
お気に入りの本を持ち寄って、紹介したり感想を聞き合ったり、という場が持てたらいいなと思っています。その際には是非ご参加くださいね。


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【ソーパープロフィール】

ハタヤ商会 AYAさん 兵庫県神戸市在住
◆ハタヤ商会オフィシャルサイト http://saponedihataya.com/
◆ハタヤ商会ブログ「ハタヤ商会の手作り石けん」 http://ameblo.jp/buonsapone/

2006年より、友人HATと共に手作り石けんユニット「Sapone di HATAYA ハタヤ商会」としての活動を開始。京阪神を中心に手作り関連イベントへの参加、手作り石けん教室を開催しています。教室では石けん作りの基本から、季節を取り入れた素材や香り付けのアレンジ、また自然素材を使ったスキンケアやハウスキーピングなどの紹介も。いつか手作り石けんの色々な楽しみを綴った本を作りたいです。