特集

私は、シュタイナー学校で数学を教えています。今日は、近年、日本でも知名度の高くなってきた「シュタイナー教育」を、「手仕事」の角度から見て綴ってみたいと思います。

vol.17 シュタイナー教育と手仕事

生きる力を育む

「どうして、数学の先生が手仕事について語るの?」と思われるかもしれませんね。数学と、芸術や手仕事は無関係のように思われがちですから。でも、人間全体を見たとき、頭を使うこと(思考)と手を使うこと(意思)、心を使うこと(感情)は切り離して考えることができません。世界の全ての物事が繋がりあっているように、また、意思・感情・思考を切り離すことができないように、学校で学ぶ教科も密接に繋がりあっています。

手仕事のカリキュラム

シュタイナー教育では、多くの手仕事をします。幼稚園では、自然素材の羊毛を洗い、草木染めで色をつけ、フェルト化してボールを作ったり、太毛糸で指編みをしたりします。小学校では、1年生から棒針編みをし、簡単な機織をし、刺繍や鉤針編み、縫い物をします。また、小学校中学年で始まる木工や中学校からの金工、粘土に篭編みと、カリキュラムはバラエティに富んでいます。でも、学校教育を通して芸術家や職人を育てようとしているのではありません。手仕事をするプロセスに大事な学びがあるのです。

写真:手織りのポーチ

手仕事のプロセス

編物や縫い物、また、木工や金工などの作業で共通しているのは、単調な繰り返しの作業です。一目一目編む作業、少しずつ彫り進める木彫の作業は、1つの作品を創り上げるなかで欠かせない作業です。その作業にあるのは、繰り返しの動きが織り成すリズム。単調な繰り返し作業に没頭しているとき、その作業のリズムが自分の中で生き生きと動き出すような感覚を味わったことはありませんか。呼吸や規則正しい生活習慣などのリズムが健やかな身体を育むように、繰り返しの作業から生まれる規則正しいリズムは、人間の生命力を強めます。

写真:手編みのノーム

手仕事の素材や作品から得られるもの

草木染めされた自然素材の羊毛や綿を手で感じながらの作業は癒しそのものです。また、木工で、木材加工されていない樹皮のついたままの木からボウルを彫るとき、子どもたちは、ひとつひとつ形も色も違う個性のある木を目で見て、肌で感じ、臭いをかぎ、木の個性を活かしながらボウルを彫っていきます。大量生産のボウルを作っているのではありません。生きた素材を目の前にして、木の目に逆らわず、木の個性を活かしつつ作品を仕上げていく作業で、子どもたちは、自らの感覚を最大限使います。命のある素材を扱いながら、子どもたちは感覚を磨き、自分自身と向き合いながら世界を体験しているのです。もちろん、自然素材や出来上がった作品の美しさに心を動かすことも、大事な学びです。

写真:木工。手彫りのスプーン

考える力を行動にうつす

高校の木工では、家具づくりなどの論理的思考が問われる作品を作ります。計算をし図面をひき、作りたいものを実現するための手段を考えた後、実際に作る作業をします。小中学校で手と心を通して考える力の基礎を作りあげた子どもたちは、その思考を行動に移すことを学ぶのです。

写真:木工。あり組みの箱

人が生きる力

人は考えるだけでは生きていけません。知識を持つことも大切ですし、何が正しくて何が間違っているかを分かることも大事です。でも、何が正しいのか分かっても、それを実行する力がなければ片手落ちです。だから、知識に偏ることなく、人を総合的に見て教育することはとても自然なことだと思います。実際、そうやって子どもに総合的に働きかける時、意思、感情、思考それぞれの力が相互に作用しあって、子どもの個々の力の成長を強めていきます。それが人の「生きる力」となる。そして、シュタイナー教育が育てているのは、まさしくその「生きる力」なのだと思います。

写真:金工。銅のボウル


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【プロフィール】

石川 華代(いしかわ かよ)
大学で教育学と数学を学ぶ。幾何学専攻。
大学卒業後、コンピュータプログラマの仕事を経て、個人学習塾を開業。個人塾経営・講師の仕事の傍ら、高等学校で数学を教える。2002年渡米し、カリフォルニアにあるルドルフ・シュタイナー・カレッジで、人智学基礎コース、シュタイナー学校教員養成課程を修了。2004年、イギリスへ渡る。
現在、3歳と2歳の息子たちの世話をしながら、エルムフィールド・シュタイナー学校の中・高等部で、数学・幾何学メインレッスンを教える。

エルムフィールド・シュタイナー学校ホームページ http://elmfield.com/
ブログ “Kayo in England” http://chamokayo.exblog.jp/
「シュタイナー教育 学びの広場」 http://info.e-waldorf.com/