BOOKクラブ

みんなに注目されているソーパーさんたちに、石けん作りや日々の暮らしに影響を与えたお気に入りの一冊と、その本にまつわるエピソードを紹介してもらいました。

「Merle’s Door(マールのドア-大自然で暮らしたぼくと犬)」

はじめまして。 今回こちらのブッククラブへ海外在住者として寄稿させていただくことになりました。 石けん作りでは全くの無名である私に寄稿のお話が合ったときは冗談だと思ってしまいました。これを読まれる方もさぞかし驚かれていることでしょう。でも、住む場所が日本国内でなくても、皆さんと同じくらい石けん作りを楽しんでいます。

私は海外で暮らし始めて来年の春で30年を迎えます。 このうち6年間はシンガポール在住でしたが、大半はここスウェーデンで過ごしています。 スウェーデンといっても結婚当初は南部の小さな海辺の町スカノー・ファルステボーに6年、現在は首都のストックホルムから南に車で約1時間半程下った人口約13万人ほどの街ノルショッピン(これでもスウェーデンで8番目に大きな都市なんです)の郊外で暮らしています。

ニューヨークやシンガポールなど、日本人がたくさん生活している大都会とは異なり、このスウェーデンでは、ましてや私が暮らしている田舎では日本語の本を扱っている本屋さんというものがなく、 もっぱらネットで注文、帰国の際に購入する、あるいはこちらに在住している日本人の友人に借りるくらいしか日本語の本を手にする機会がありません。 今回ブッククラブで好きな本を紹介して欲しいというご依頼を引き受けさせていただいたものの、頭に浮かんでくる本はスウェーデン語や英語の本でした。もちろん語学が堪能というのではなく、そういった本が一番手に入り易く身近にあるということなんです。

今回紹介させていただく本もそういった中の一冊で、”Merle’s Door”という本です。この本との出会いは、この夏の休暇中に夫が読みたいと購入した本の中の一冊でした。スウェーデンでは、夏に皆長期に渡って休暇を取るので、読書の秋ならず、読書の夏なんです。夫が大変感動し是非ともと奨めてくれたのがきっかけです。幸い日本語訳「マールのドア—大自然で暮らしたぼくと犬」がありますので、皆さんにもこの心温まる感動を共有していただければ光栄です。

実をいうと私は犬や猫が全く苦手で、娘たちも私の影響を受け怖がる始末、、
犬、猫、ハムスター、鳥などを子供の頃から飼って育った動物好きの夫が、これではいけないと子供たちの動物恐怖症を何とかしようと、猫から飼い始め現在では犬(ローデシアンリッジバックという日本ではあまり馴染みのない種類、南アフリカでライオン狩りに連れて行かれた狩猟犬)に至っています。その間、子供たちだけでなく私も犬や猫恐怖症を克服し、今では犬2匹との散歩が欠かせない毎日になっています。

さて、本の作者テッド・ケラソテはナショナルジオグラフィック を始めとして様々な雑誌や新聞など定期刊行物に寄稿するライターで知られる自然愛好家です。本書の中でもいたるところで彼の自然に対する観察力の深さに目を引かれます。そんな彼のもとへ現れた野生の犬マールとの生活が従来のペットとして飼う犬の概念を超え、人生のパートナーとして、その過程が細かく語られています。テッドとマールの会話、マールは犬なのでもちろん言葉は話せませんから、テッドの勝手な解釈とも言えなくはないのですが、まさに意を得た表現がいたる所にあり、読んでいて何とも心地良く、思わずうなずいたり、微笑んでしまうのです。

猫用のドアというのは、よく聞くのですが、犬用のドアを取り付け自由に出入りできるようにするというのは、やはりかなり環境の良い場所、自然に囲まれ交通量の少ない場所という制限がなければ、実際に行うのは難しいことですし、かなり勇気のいることです。彼らが暮らすワイオミングのような大自然に恵まれた場所だからこそできたことなのですが、それでもテッドやマールが暮らす周辺には、オオカミ、コヨーテ,グリズリーベアなども生息しているので、テッド自身も自然の厳しさをしっかり認識した上でのこと、マールが生後10か月近くも野生として育った犬だったこと、そして何よりもマールの野生さ、つまり犬の本来の習性をを維持してあげたいと願うテッドの決断は素晴らしかったと言えます。テッドはマールと共にキャンピング、カヌー、スキー、登山、狩猟などをしながら自然と共存する楽しさと共に厳しさをも分かち合っています。読み進むうちに、こちらまで一緒に自然を体験していくような感動を得ました。こんな著者と犬だったからこそ、この犬用のドアが可能だったのではないかと思うのです。野生の犬だったマールだけでなく、野生の猫もこの著者の家にやって来て共に暮らすようになるのですが、動物が人間を選ぶというのが実に愉快です。

この「マールのドア」から犬の人権(犬権?)を尊重し、犬や猫の習性を大事にしてあげるということはとても大事なんだと痛感させられました。また、犬というのは、リードを付けていると、どうしても飼い主がついているという安心感があり、自分の意思を押し通そうとしてリードを引っ張りがちです。付けない方が自由に行動できる代わりに自分の行動には責任を持たなければいけないと思うのか、却ってこちらの言うことをよく聞きこちらの一挙手一動に注目するのも、実に興味深いです。ただし、これも場所によりけりですが。こういった行動は、子育てにも通じるかもしれません。やはり可愛い子供たちには、少々不安でもいろんなことを体験させて、どんどん独り立ちさせていってあげることは、とても大事だと思います。 

マールのように犬用のドアを自由に出入りすることは、ほとんどの家では無理だとしても、著者は犬を思いきり自由に走らせて、自然の匂いをかぎ分けさせることが大事だと語っています。 自然の匂いというのは、他の動物の匂いだけでなく草花のケミカル成分も含まれ、どの花は食べられるとか臭覚で嗅ぎ分ける事ができるのだそうです。我が家で最初に飼っていた犬が、散歩中によく草花の匂いを嗅いでいたのですが、なるほど、彼女はこうやって草花の匂いを嗅ぎ分けていたんだなぁと、今さらながら納得しています。犬だけでなく、私たちにとっても自然に接することは素晴らしいことだと、こんな田舎で暮らすようになって実感するようになりました。石けん作りに使われる例えば、セントジョンーンズワート、カモミール,ネトル、ヤロウ、まつよい草、ローズヒップ等々は日々の散歩の道端や、庭の片隅に咲いている草花(というよりも雑草に近い)として、とても手近にあります。人々はこういう植物を石けん作りだけでなく、日々の生活に取り入れてきたんだなぁ、と変に感激したりしています。

石けんを作る仲間が傍にいないので、石けんを作る作業は孤独な作業ですが、ネットを通して皆さんのサイトをいつもこっそり覗かせていただき、アイデアをたくさんいただいています。料理やお菓子を作ったり、パンを焼くのが好きなので、石けん作りも料理感覚として、一人でも結構楽しくやっていけるのかもしれません。そして、我が家の犬たちが自然の中で思う存分走り回る姿を見ながら、犬たちからエネルギーをいっぱいもらっています。

石けん作りにはあまり関係のない本ですが、大自然の中で生きる犬と著者の日々の生活の中から、犬と人間がこれほどまでに信頼し合いそれぞれの生活を尊重し合える素晴らしいパートナーになり得る、そして動物を飼ったり、自然に接する生活は人間の生活をも豊かにする。石けん作りの合間にそんな感動を皆さんにも是非味わっていただければ嬉しいです。


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【ソーパープロフィール】

Hiroe Thornanderさん 神戸市出身、スウェーデン在住
◆hiroeさんのウェブショップ http://hirossoap.ebutiken.nu/

苗字のThは英語で舌をかんで発音する音ではなく「ト」に近い発音です。
家の地下にサウナを作ったことで、サウナ、お風呂の楽しみがないかとネットで探索中に、手作り石けん「たおさん」のサイトに出会い、2004年から作り続けています。
昨年末にスウェーデン向けのオンラインショップを開いていますが、今だに趣味の域を超えていません。それでも、石けん作りはとても楽しくて、これからもずっと続けていきたいし、いつかみなさんの石けん教室に参加させていただきたいと思っています。