特集

ライフワークを通して自然や植物、地球環境とか、人と人とのつながり、ものづくりや手づくりの心について思うことなど様々な分野で活躍する人たちからのメッセージをお届けします。

vol.21 和して生きる

鯉のエサ

天然の石けんと、そうでない合成洗剤の違いに驚いたのは、いまからもう何年前のことでしょうか。
とある石けん工場に行き、大釜で大量生産されるさまざまな石けんを見学していたときのことです。
ふむふむ、細かい製造工程は異なるけれど、油脂を強アルカリで鹸化(けんか)するという大原則は、どんな石けんでも同じなんだなあ。そんな感想をいだいて建物の外に出ると、バシャバシャ音を立てて近くの池の鯉が私たちを待っていました。
「この魚は、工場の排水が安全であることを確認するため、そして工場で作った石けんを試食させるために飼っています」
案内係さんの言葉に見学者たちはどよめきました。試食?! 石けんを食べさせるの??

「みなさんも鯉にエサをどうぞ」

そう言われて手渡されたものは、小さなペレット状の粒々でした。ベージュ色で固くカリカリしており、かすかに油のにおいがしました。これが石けん?魚のエサ?
鯉は、いつも見学者たちが食べものをくれることを知っているのでしょう。みんながそれを池に投げ込むと、水をはね飛ばして食べ始めました。
おいしいのかしら。かじってもいいかとだれかが尋ねると、案内係さんから、害はないが、にがいからやめたほうがいいという答えが返ってきて、全体に笑いが広がりました。
鯉のエサは、一種のカルシウム石けんだということでした。考えてみれば、油脂もカルシウムも魚にとっては大事な栄養ですから、それらが鹸化した「石けん」は、大変効率のよい飼料です。いつもまとめて養殖場などに引き取られるとのことでした。この体験でいちばん驚いたことは、それが思いもよらぬ石けん工場の一角で作られているということです。

「石けんは時によって食べものにもなるんだ。」
「原料もできあがったものも、生き物のすぐ近くにあるものなんだ。」

そのことを、とてもリアルに感じました。

写真左から:石けん原料のひとつパーム椰子は食用にも。石けん水に漬かったまま元気に育つ観葉植物

 

石けんへの思い

ふだん、重曹の使い方をお伝えする機会があると、それだけで汚れが落ちにくいときはどうしたらいいかという質問をよく受けます。
その場合は温度や濃度、漬け置く時間など、いろいろ条件を変えて落ち方を観察してみることが大切ですが、それ以外に、洗剤と重曹を一緒に使うというのもよいアイデアですよとお伝えしています。
そのとき、一緒に使う洗剤には天然の石けんを使ってほしい。必ずそのことも申し添えます。とはいえ、いまや石けんと合成洗剤の区別がつかない人がほとんどですから、原料や作り方、ラベルの見分け方など、かなり詳しく説明しなくてはなりません。
でもちっとも面倒とは思わないのです。いつも一所懸命に説明します。その情熱の原動力になっているもの。それは、石けん工場で見た鯉たちの姿なのです。
「私たちが汚れと呼んで、家から流し出すものは、見方を変えれば次の生き物の食べものですよ。彼らが喜んで食べてくれるように、重曹と石けんを使いませんか」
そう言うとき、私の脳裏には必ず、あの、水をはねて石けんを食べる鯉の姿が浮かんでいます。鯉だけでなく、やはりそれを食べるであろうミジンコなどの小さな生き物たちの姿も、心のカメラには映ります。

石けんから学ぶこと

重曹や石けんは、私たちに大切なことを教えてくれる存在だと思います。私たちだけでなく、私たちを囲む生き物の大きな環の中で「和して生きる」こと。
日々の暮らしを通して、そういった小さな体験を積み重ねることを、これからも尊んでいけたらと思っています。


スポンサードリンク

【プロフィール】

岩尾明子(いわお あきこ)

未来型ナチュラル生活研究家。環境NGOクリーン・プラネット・プロジェクト(CPP)代表。
地球に優しいお掃除サイト http://www.cleanplanet.info/ の運営を軸に、ナチュラルで清潔で楽しい暮らし方についての研究と発表を重ねている。
著書に『重曹生活のススメ』(飛鳥新社)、『手作り洗剤レシピ 重曹・酢・石けん』(NHK出版)、『重曹と酢を使って手作りでナチュラルに暮らす基本』(成美堂出版)、『保存版! 重曹とお酢でナチュラル生活』(主婦の友社)など