BOOKクラブ

みんなに注目されているソーパーさんたちに、石けん作りや日々の暮らしに影響を与えたお気に入りの一冊と、その本にまつわるエピソードを紹介してもらいました。

「社会を変えるには」

今日ご紹介したい本は社会学者の小熊英二さんが、福島原発事故以降、日本で高まっている社会変革運動について考えたことをまとめたものです。どういう社会に変革したいかと考える前に、今の日本はいったいどういう社会なのかを客観的にながめます。それから、変革の行き先として、格差のない社会、住みよい社会をつくるための制度と考えられている民主主義について考えます。民主主義の起源といわれるギリシャから掘り起し、そのときの社会、なぜ民主主義がよいという考えが生まれてきて、どう成長してきたのか。考えが成長していく背後にはどういう状況があったのか。

石けんWebの本の紹介のお話しをいただいたとき、小熊英二さんのこの本が真っ先に頭に浮かんだのは、小熊さんのモノを考える態度と私が石けんづくりを始めた態度に共通するものがあるからでした。

私が石けんづくりを始めたきっかけは、1999年に発行された『環境思想入門』という本を訳したことでした。
当時、京都にある大学で「環境社会学科」を立ち上げることになり、私はその準備室で仕事をしていました。社会学で環境問題を扱うというのは、日本ではまだ新しい考えでした。環境問題はすなわち公害問題であり、公害問題は理数系の学科であつかうのが普通だったからです。なので新しい学科の学生たちがお手本にできる書籍も日本語で出版されているものはほとんどないような状況だったので、環境問題を、思想的、経済的、政治的、社会的に俯瞰している本書の翻訳をお手伝することになったのです。そういった仕事を通して、環境問題と政治、経済、社会が密接に結びついていることをはじめて深く考えるようになりました。
当時、よく言われた言葉に「シンク・グローバリー、アクト・ローカリー」というものがあり、この言葉は、地球規模のことも目の前の自分の生活を見つめなおすことから始まるというような提唱でもありました。実際、自分の毎日の生活のなかを見つめなおすと、いままで何も考えずに「商品」を購入して消費していたことがよくわかりました。
たとえば、朝晩顔を洗う、歯をみがく、下地を整え、お化粧をし、仕事に出かける。この何気ない一連の朝の作業のために、私は歯磨き粉、石けん、化粧水、乳液、お化粧品、シャンプー、リンス、整髪ワックスを購入します。そういったものがなんで必要なのか、それらは何でできているのかなんて疑問にも思いませんでした。テレビコマーシャルをみて、こういったものが必要なんだと何気なく思っていただけかもしれません。

先に触れた環境社会学科の取り組みのなかで、学生たちと廃油から石けんをつくる、ということをしたのが最初の石けんづくりでした。この石けんづくりが私に考えるきっかけをくれたのです。朝の支度で使う石けんは、廃油でもつくることができる! 衝撃でした。じゃあ歯磨き粉は? 化粧水はなんのためにつけるの? 肌に良いと信じている乳液は何からできているの? 
いろんな本を読んでいくと、石けんは廃油だけでなく(今から考えると当たり前ですが)、オリーブオイルやパームオイル、その他のいろんなオイルからつくることができることがわかりました。化粧水をつけるのは、石けんを使用することで弱アルカリになった肌のペーハーを整えるということが必要なんだということを知りました。肌の調子を整えるのに必要なのは石けんや化粧水や乳液だけでなく、食事も見直すようになりました。
食べて体にいいものは、体の手入れに使ってもいいものであること。スーパーで安く売っているのが購入する決め手になっていたいろんなオイルも、そのオイルが出来上がるまでのプロセス、安いものというのはなぜ安いのか、を気にして購入するようになりました。
こういう切っ掛けがあると、あとはもうロープをたぐるように日常のなかに見直すことが後から後からでてきます。そしてそのロープは、商品を買うというのはどういう意味をもつのか、経済の基本になっているモノをつくって売るという行動は、今現在どんな仕組みになっているのか、経済活動を支える社会の仕組みは? 社会の仕組みを整えるために機能している政治システムは? と様々なことを考えるところまでずっとずっと伸びているのです。

小熊さんが『社会を変えるには』でとっている、「社会を変えるには、まずいまいる社会は何かを考える」という態度は、まさに何かを考えるとき、対象そのものをまずじっくりみてみるという態度であり、それは多くの場合、考え続けることができる最初のきっかけをくれるものです。そしてそういった態度は、ともすれば迷いがちな人生のいろんな段階で、ずいぶんと私の決断を助けてくれています。石けんづくりがいまの私の生活にかかせないものとなっているのも、この本で示されている態度がきっかけだったんだなぁ、と今回の記事をかかせてもらって、あらためて思うのでした。


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【ソーパープロフィール】

キム・クンミ(金 克美)さん 京都生まれ 現在は米国ニューヨーク市に在住
◆TUP:http://www.tup-bulletin.org/
◆ウェブサイト:http://momo-soap.com/
◆ブログhttp://keukmi.sakura.ne.jp/blog/

本業は翻訳をしたり、記事を書いたりしています。そのかたわらで石けん工房のMoMo Soapを主宰。コミュニティに根差した?石けんづくりを心掛けてます。共訳書に『環境思想入門』、『いま、イラクを生きる―バグダッド・バーニング〈2〉』、『冬の兵士』等。最近では『チェルノブイリ被害の全貌』にも翻訳プロジェクトメンバーとして参加しました。また、TUP(Translators United for Peace)に参加し、日本であまり報道されない意見などを翻訳・配信しています。